もるだーPの日々徒然なるままに。

ニコマスでほそぼそと動画を作っている底辺Pのブログ。

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自由

2010-04-01
SS
 少女は逃げていた。
 暗い地下道を真っ直ぐ地上に向けて走っている。
 折角逃げ出せたのだから、足を止めて追手が来るのをおとなしく待つなど、そんな愚かな選択肢など最初から
持ち合わせていないのだろう。
 と、言うよりもそんな事を考えるのなら最初から逃げ出さない筈だ。
 視界に光のない地下道は少女の方向感覚や距離感を奪い去り、少し走っては足元を走る何かのチューブに
引っかかって転び、または曲がり角が見えず、全速力で衝突してしまうのもすでに二桁は超えている。
 こういう時、せめて手が自由に動けばと思う。
 だが手は手錠に似た見た事のない手枷のせいで、完全に自由を奪われている。救いは後ろ手ではなく前で
動けなくなっている事か。

「あぐっ!」

 少女は何度目かの衝突に、激しく後ろに吹き飛んだ。
 今の当たり方はまずい……。
 心の中で呟くと同時に、少女は埃っぽい床の上をのた打ち回り始めた。
 もしかしたら折れてしまったかもしれない。
 そんな想像をさせる痛がり方は、ひいていく事を知らず段々と範囲を広げて少女の体を蝕んでいっているのだ
ろう。
 それは今の衝突だけではない。これまで何度となく体を痛めてしまった膿が噴出している筈だから。
 痛みのせいで呼吸ができていない。
 口をだらしなくあけ、必死にもがく様に酸素を欲する。あまりの苦しさに口端からは唾液が流れ、涙がもう前に
整えたのが何時だったかわからない、潤いなどとっくに消え去った髪に染み込まれていく。
 酸素を取り入れる穴を増やそうと、鼻で呼吸を行う。
 しかし、こちらも痛みのせいか涙のせいかわからないが、鼻水によって塞がれていた。

「が……ぐふ……ゲホゲホ……!」

 もがく。
 床の上で右往左往し、仰向けうつ伏せ右向き左向きと体を動かして、必死に痛みを忘れ、酸素を求める。
 どれだけの間もがき苦しんでいたのか……。
 ようやく落ち着いた少女は、仰向けの体勢から立ち上がった。
 それだけの行為なのに、腰を半分浮かしては転び、よつんばの姿勢から立ち上がろうとすると前のめりに突っ
伏す。
 時折衝突の際にぶつけた肩を再び痛めて、悶絶していた。
 なんて事なのか。
 かつてアイドルとして世間に素晴らしい歌声を届けていた人物と、今暗い地下道で汚らしくも自由を求めてい
るこの少女が同一人物なんて誰が想像できようか。
 少女はようやく立ち上がると、後ろを気にしながら壁に手を当てて歩み始めた。
 どうやら追手を気にして速度を上げるのではなく、体が痛まない方法を選択したらしい。
 ……ああ、いや、走りたくても走れないのか。
 それまでちゃんと床を踏みしめていた左足を引き摺っている。捻挫でもしたのだろう。
 どうせならもう諦めればいいと思う。そうしたら手厚い看護が待っているのだから。
 もちろん、傷が治った後に待ち構えているのは、陵辱と肉体的な制裁だが。
 それは少女も理解しているからこそ、痛みを押してでも逃げ出そうとする。自由を求めて地上を目指す。
 と、その時少女の顔に希望の兆しが見えた。
 見ると彼女の視線の先には、光が零れているドアが燦然と輝いていた。

 コングラッチレーション。

 心からの賞賛を送ろう。
 そこに辿り付いた人間はいない。
 大抵は壁の衝突の際に致命傷を負ってそのまま死んでいくか、もしくは暗闇の中で方向感覚を失い餓死してい
くからだ。
 そういう点では彼女の体は通常より頑丈だったと言う事か。それなら素直に献体に回せば良かった。その方が
立派に人の役に立つ。
 少女は、もう希望によって痛みを忘れたのだろう。
 小汚い姿であっても輝くという形容詞が見事に当てはまる笑顔を浮かべて、ドアへと歩いていく。
 足取りが軽い。
 それはしょうがない。
 これまで散々苦痛を強いてきた空間から脱出できるのだ。それを考えれば痛みなど二の次。生きている証にさ
えなる。
 一歩。
 また一歩とドアに近づき、彼女は後は目の前の障害を開くだけで自由を手に入れる事ができる場所に立った。
 気を落ち着かせているのだろう。
 瞳を閉じ、胸に手を当てて何度も深呼吸をしている。
 期待に満ちた眼差しでしっかりとドアノブを見つめると、ゆっくりと手をかけた。
 さぁ。
 望んだ世界へと体を踊らせよう。
 何処までも澄み切った青い空に、髪を梳く心地よい風を全身に浴び、胸の内に溜まった思いを高らかに歌い上
げると良い。
 彼女がかつて歌っていた『蒼い鳥』という曲のように、ただ何もないその世界に己の翼だけで飛び立つんだ――。

「尤も、そんな姿を見た後で、叩き落すのが心地よいんだけどね」

 俺が呟いた瞬間、彼女はモニターの中で真っ赤な蛋白質の塊となった。


 
                                                  END


<after>

「如何でしたか?」
 モニタールームから社長室に行くと、そこには顎の下で手を組んだ高木社長が満足そうな笑みを浮かべて待っていた。
「うむ。あそこまで辿りつくとは驚いたが、株主様達の反応は上々だった。ご苦労だったなプロデューサー君」
「いえいえ。ご満足頂けたなら何よりです。しかし……」
「何だね?」
「あの頑丈さなら、何処かの医薬会社に売れば、良い献体になったと思いましてね」
 ふっと浮かんだ考えだったが、あの調子であれば内臓系を弄繰り回しても生きながらえていたかもしれない。
「ああ、確かにな。その方が世界のためにもなったな」
 社長も同意を示し心痛な表情を浮かべて頷いた。
「ええ。ただ満足するだけではなくて、その後の人々のためにも役立ちますから」
「しかし最初に企画を聞いた時はどうしたもんかと思ったが、こういう需要はあるのだな」
 そう。
 最初にこういう企画を持ち込んだのは俺だ。当時はまだ駆け出しのボンボンで、枕営業を基点に仕事を取る以外に営業手法を何も持ち合わせていなかった。
 だがある日ふと気づいたのだ。
 業界人の中には『色』だけではなく『鉄』を望む人種が多い事に。
 気づいたら後は簡単だった。枕営業で有名になっていた担当アイドルを地下に監禁し、美しさを保たせながら後に続くアイドルのために体を張って営業させる。そしてある程度の年齢に達し、『色』を保てなくなる時期にきたら今度は脱出サスペンス風味の賭博レースのお馬さんに早代わりだ。
 何も知らないアイドルの前にわざと脱出方法を提示し、逃げ出した彼女達を暗視カメラで撮影する。
 そして別室にいる株主やディレクターにその姿を娯楽として提供する。
 もちろんそれはアイドルを自由にしてしまう危険性もあるのだが、彼女達の服には光に反応する小型爆弾がボタンの数だけ付けてある。
 この提供が本当に上手く機能した。
 今では業界の八割は顧客といって差し支えない。
「もちろん。人間の性は所詮血と暴力。最初にアイドルとして世間に貢献させ、ある程度育ったら今度は番組関係者やスポンサーの皆々様に役立つように地下のアイドルとして活動させる。ご希望があれば今回のような脱出劇を模したサ
スペンス。エンターテイナーは最後の最後まで楽しませなければなりませんから」
「それがアイドル、か」
「はい」
 アイドル――偶像の彼女達はその短い一生のために自らを磨く。だったら最後まで美しさを使い切ってあげなければ嘘というものだろう。それができなければプロデューサー失格だ。
「ああ、そうだ。最後のあれは良かったな。ばぁんと花が開いたように爆発して綺麗だったよ」
 ふと社長は先程のゲームを思い出したようで、少女の散り際を口にした。
 実はあれは俺も満足だった。
 まさかあそこまで希望という名の果実が美しさに磨きをかけてくれるとは思いもしなかった。本当に脱出されてしまう危険性もあるのでそうそう使える手ではないが、時間を調整して日中に必ず脱出できるよう手配できれば面白い見世物になるだろう。
「ありがとうございます」
 頭の中で新しいプロデュースを考えながら、社長にお礼の言葉を述べた。
 と、そこに第三者が近づいてくる足音が聞こえた。
「プロデューサーさん」
 それは同じく765プロに勤務する事務員・音無小鳥さんだった。
「はい? ああ、小鳥さん」
「これが次のプロデュースする女の子です」
 一枚の書類を差し出された。
 俺は目礼してから書類を受け取ると、その内容を見てさすがに目を見開いた。
「……ふぅん。水瀬グループのお嬢様ですか。いいんですか? 社長」
「ああ。彼女の父親から身内がどんな美しい姿を晒すか見てみたいと申し出があってね。是非君の手で大輪の花を咲かせてあげてくれたまえ」
 何とも世も末だ。
 だが俺の仕事はプロデュース。クライアントからのご希望とあれば答えないわけにはいかない。
 一度だけ社長を見る。
 彼は大きく頷いてくれた。
 明確なGOサイン。
 俺は社長に踵を返すと部屋を辞退した。

 さて始めるか。
 新しいプロデュースを――。
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