もるだーPの日々徒然なるままに。

ニコマスでほそぼそと動画を作っている底辺Pのブログ。

スポンサーサイト

--------
スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

嫌いな雨

2010-04-01
SS
 雨は嫌い。
 落ちてくる雨粒を眺めていると気が滅入ってくる。
 シトシトシトシト……。
 昔の人はこの音が風流とかって色々と名言を残しているみたいだけど、私にはただ重苦しいだけのものだ。
 空を見上げる。
 限りなく白に近いくせに、まるで止む気配のない静かな雨は、仕事が終わって午後から二ヶ月ぶりの半休に
なった私を、煉瓦調の雑居ビルに入っている雑貨屋さんの軒下に釘付けにしていた。
 
「天気予報だと雨は夜からだって言ってたのになぁ」

 最初は雑貨屋さんの中を覗いて時間を潰していたけど、三十分を過ぎたあたりでお店の人に申し訳なくなって
表に出た。
 出たのは良いけど結局はその場から立ち去れていなかった。
 だって雨は嫌いだから……。

「傘、ないのか?」

 その時お店の中から声が聞こえた。
 振り返ると、さっき覗いた時にはいなかった大学生くらいの男の店員さんいた。
 休憩でもしてたんだろうか。どこか眠そうな瞳を擦りながら私を見ていた。

「夜からだって言ってたから、持ってこなかったんです」

「駅、走れば三分もかからないだろ?」

「濡れたくないんです。雨嫌いですから」

 少し冷たかっただろうか?
 でも雨のせいで気分の悪い私には精一杯の優しい対応だ。罪悪感はちょっぴりあるけれど、謝る言葉は口を突
きそうもない。
 私は心の中で不機嫌そうに頭を下げると、再び空を見上げた。
 ……もうすぐ止みそうなのに。
 遠くを見ると雲の間に切れ間が見える。
 多分、十五分もしない内に、ここも晴れる筈だ。

 ようやく開放される――。

 そんな思いが重々しく私の口から溜息になって零れた。
 その時、不意に私の頬に冷たい物が触れた。

「ひゃい!?」

 驚いてその場で五十センチは飛び跳ねた。
 そして着地と同時に冷たい物が触れていた頬を手で押さえて、そんな事をした犯人であろう人物に指を突きつ
けた。

「な、な、な、な、何するんですか!」

「暇なんだろ? ちょっと付き合えよ」

 私の質問は一切スルーして、店員さんは手に持っていた缶コーヒーを私に投げて寄こした。

「っとっとっと……」

「ほら、この椅子使っていいぞ」

 続けて店員さんは折畳み式の丸椅子を私に突き出す。
 ……一体なんだというんだろ?
 いきなり缶コーヒーを頬に当ててきたり、話に付き合えーとか言ったり。
 誰もわかりました。なんて答えてもいないんだよ?
 雨のせいもあって感情が抑えられない私の顔は、アイドルに有るまじきすごい膨れっ面をしていると思う。
 でもそんな私の反応なんてどこ吹く風。
 店員さんはさっさと椅子を開いてどっかりと座ると自分の分の缶コーヒーの蓋を開けると、大きく一口を飲ん
でいる。

「…………」

「ん? 何だ?」

「それはこっちの台詞ですよ! 何ですかいきなりこんな……!」

「雨降って濡れたくないんだろ? だったら暇潰しに話くらいってだけだろ?」

「傘を貸してくれてもいいじゃないですか!」

「生憎俺と入れ替わりに休憩に入ったじーさんが使ってて一本もないんでね」

 ……私怒ってもいいよね?
 
「ちょっと、自分かっ……」

「コーヒー、温くなっちまうぞ?」

 途中まで開いた口がパクパクと動くけど、声にならない。
 怒りの矛先を向けようとした途端にスルーされた私の感情は、今まで以上に行き先を失ってぐるぐる回ってし
まった。
 もう仕方ないんだから!
 タダでくれるって言うなら、もらっちゃうんだからね。もう返せって言ったって返さないんだから!
 怒りを缶コーヒーにぶつけて、今までにない大きさの音を立てて蓋が開く。そしてそのまま一息に全て飲み干
した。
 口の中が缶コーヒーの甘すぎる味に支配される。
 
「おー。凄い凄い」

 何か関心する琴線に触れたのか、目を少し開いて小さく拍手を送ってくる彼を無視して、椅子を広げて私も座っ
た。
 もちろん、店員さんには背中を向けて、だ。

「それでお話って何を話すんですか!? 聞くだけ聞きますから勝手に話せばいいんじゃないですか!?」

「お前さー」

「何です!?」

「何で雨嫌いなの?」

 ピタリと。
 まるで歯車の回転が止まるように私の全てが止まった気がした。

「……嫌いなものは嫌いなんです。どうだっていいじゃないですか」

「そうか?」

 店員さんは胸ポケットから煙草を取り出すと、まるで彼がするように、トントンと取り口付近を叩いて中身を取り出した。
 その仕草に、ムネがギシリと軋んだ。

「俺は雨は好きだけどな」

「そうですか。私は嫌いです」

 そう。
 雨は嫌いだ。
 あんな思いをして告白をして、それでも去っていったあの人を思い出すから。
 ラストコンサートが終わった。
 二人で歩く道。
 そして。
 そして……。

『春香――』

 思い出した光景に、私は思いっきり目を閉じた。
 雨音だけが耳朶を叩く。
 嫌い。
 嫌い……。
 嫌い……!
 雨なんて大っ嫌い!
 
「雨なんて……」

「雨が嫌いな奴ってな」

 また店員さんは私の言葉を遮った。
 ゆっくりと瞳を開いて隣を見ると、店員さんはさっきまでの私と同じく雨が降る空を見上げていた。
 ただ、その瞳に映る感情は何処か寂しげだった。

「雨が嫌いな奴ってな、泣いてる奴なんだ」

「泣いてる……?」

「それが何のせいで泣いてるかは知らないが、自分の中にあるナニカを流せていないんだ」

 ナニカってナニ?
 そんな事自分に問いかけなくてもわかっている。
 私が雨を嫌いになった理由なんて一つしかないのだから。

「……ナニカを流せれば、雨は好きになるんですか?」

「さぁ。どうだろな」

 店員さんはゆっくりと立ち上がると、煙草を口から離した。

「ただ、ナニカにかけた思いだけは……時間が経ったら経った分だけ重くて重くてどうしようもなくなるんだ」

 ズキリ。
 軋んでいた胸が痛んだ。

 笑顔で帰った。
 あの人も笑顔で別れてくれた。
 でも家に着く頃に降り出した雨は、私を一瞬でずぶ濡れにした。
 私の頬を伝うとそれはただの水から涙に代わった。
 いつしか私は歩みを止め、空に向かって泣いていた。

 そう。
 泣いていたんだ――。
 
「おい、大丈夫か?」

 店員さんが少し慌てた様な声をかけてくる。

「え?」

「泣いてるぞ?」

 言われてそっと頬に触れると、そこには涙の感触があった。
 それは止め処なく流れ、私の頬を濡らしていく。

 ああ、そうか――。

 止まらない涙を拭いながら、私はわかった気がした。

 私は……今でもこんなにあの人が好きで……好きで好きでたまらないから……雨が嫌いになったんだ――。

「雨、上がったか……」

 何も言わずただ私を見守ってくれていた店員さんが、雲の隙間から差し込むスポットライトのような日差しに
目を細めた。
 私も顔を上げる。
 すぐに飛び込んできた光に、思わず手で影を作った。

「嫌いな雨、止んでよかったな」

 煙草を消しながら、店員さんは静かに微笑む。
 私も釣られて微笑んだ。

「いえ、私、雨は嫌いじゃないですよ」

「……そうか」

「はい」

 元気良く頷いて、私は立ち上がった。

「コーヒー、ご馳走様でした」

「ん? 気にするな」

 中身のない缶を私の手から取り、くるりと背を向ける。
 その大きな背中に、あの時の寂しい理由が乗っていると思うと、取り払ってあげたいと思う。
 だけど、その手助けをしちゃいけないんだと思った。

「また……ここに来てもいいですか?」

 だってそれは……。

「……雨が降ったらな」

 彼が頑張って背負い続けると決意したものだと思うから。
 だから私は頑張ろうと思う。
 貴方の言葉で雨が好きになりましたよって。
 だから貴方も頑張ってくださいねって報告しに。

「それじゃ、また来ますね!」

                                                   END


<after>
 何処かで見覚えのある少女を見送り、椅子をしまってようやくカウンターの前に腰を落ち着けた時、携帯が震
えた。

「はい? 何だ兄貴か。ああ。こっちは大丈夫。元気にしてるよ」

 相手は今は海外で働いている兄貴だった。
 ちょっとした世間話と近況報告を互いに話し終えたところで、あの少女の姿が頭を掠めた。

「そういえばさ、さっき雨が嫌いだっていう女の子に会ったよ。え? 違う。ナンパなんてするか。うちの店の
前で雨宿りしてたんだよ。

 ……そうだな。
 うん、何かさ、彼女を亡くした時の俺そっくりでさ、見てられなかったっつーか。

 あん?
 そんなんじゃないって。
 だってあの娘にゃ多分惚れた男いるからな。

 だから別にそういうつもりじゃないって!
 そんな事ばかりいうんだったらもう切るぞ?
 あーうっせいうっせい!」

 電話口の向こうで兄貴が何か喚いているが、一切関知せず電話を切った。ついでに電源も落としておく。これ
で何かあっても電話には出なくて済むだろう。
 ほっと安心して、俺はラジオの電源をつけた。
 すると、最近いいなと思っていた女性歌手の歌が流れていた。
 しばしの間耳を傾ける。
 いつもこの曲を聞いた時は買おうと心に決めるんだが、歌手の名前を聞き忘れてしまう。TVでも見れば一発なん
だろうが、ほとんど見ないから何処のチャンネルを見ればいいのか検討もつかない。
 だから今日はしっかりと名前と曲名を聞こうと心に決め、パーソナリティが読み上げるのを待った。

 だがこういう時に限って客は来るもんだ。

 ドアベルが鳴ったのにがっくりして、俺はカウンターを離れる事にした。

 そしてその直後、ラジオから曲名が流れた。

『――お送りしました曲は、天海春香でshiny smileでした』
 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

Designed by yukihirotsutsumi (template: randomcards2cL)

Powered by FC2 Blog

FC2Ad

Copyright © もるだーP All Rights Reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。